世間が世紀末の到来に沸き、さまざまなうわさが世間を賑わせていた90年代後半は、さまざまなチューニングカーがそこら中の道路を走り、何もいじっていないノーマルのスポーツカーの方が珍しかった。
そんな時代に、トヨタと日産という日本を代表するメーカーの威信を背負い、常に国内最強の座を争っていたのが、A80型スープラ(トヨタ)とR32スカイラインGT-Rである。
しかし、2000年(平成12年)に施工された排出ガス規制の強化により、各メーカーとも規制クリアの対応に追われ、更に、バブル景気の崩壊なども影響し、軒並みハイパワーターボエンジンを積んだスポーツカーは世の中から姿を消していくことになる。
今回取り上げたA80型スープラもスカイラインGT-RやRX-7同様に2002年に生産終了し絶版車となってしまった。
だが、バブル期に開発されたモデルだけあって、ボディ剛性やエンジンの耐久性など、チューニングベースとしても評価が高く、販売終了から15年経った2017年現在でも、状態の良い個体ともなれば、年式に見合わないとも思えるほど高値で取引されている。
スペシャリティカーからスポーツカーになった80スープラ
先述した通りA80型スープラは、1993年~2002年まで発売されるたが、93年の発売直前はいわゆるバブル景気の終盤であり、その時代に開発された影響で、内装やボディ、エンジン、ミッションに至るまで、現在の車では考えられないくらい豪華な仕様であった。
黒が基調のシンプルな内装と思う読者もいるかもしれないが、チタン粒子を添加したインストロメントパネルに多眼メーター、そして、オーディオやエアコンの操作系も絶妙な角度でドライバーの方向に向けられ、まるでレーシングカーや飛行機のような、いかにもコックピットと呼びたくなる作り込みは、当時としてはかなりのコストをかけて開発したという。
ライバルと言われていたスカイラインGT-RやRX-7が軽量化をしていく中、まるでホームランバッターがどんどん筋肉を付けて強化していくように、ぜい肉を落とすのではなく、筋肉を付けて勝負していくというスタイル。
まさしく和製マッスルカーとも言えるほどパワフルなエンジンと、ボリューミーなフェンダーや大型の門型リヤスポイラーなど、見る者とライバルを圧倒する存在感がある。
ただ、そんないかにも重そうな外観には似つかわしくないほど、ハンドリングマシンとしても一定の評価を得ていたことも忘れてはならない。
シンプルなFRレイアウトと、絶妙な着座位置や計算され尽くした前後の重量配分、高いボディ剛性を誇りながらも、車両重量は1.5t程度と比較的軽量で、若干アンダーステア気味にセッティングされたハンドリング特性は、ハイパワーFRを踏み切るには絶妙なセッティングなのである。
また、当時話題となったのが、ターボモデルに搭載されたミッションが、ドイツゲトラグ社とトヨタが共同開発したという6速MT。
当時市販車で6速を採用していたのが、三菱のGTOとスープラしかなく、6速という多段階ミッションにも注目が集まったのだが、実はこのゲトラグ社製6速MTは、一説によると800PSまで耐えられると言われており、まさにチューニングベースとして多くのチューナーやチューニングカー好きから注目されたのである。
今の時代だからこそ手にしてほしい1台
さて、そんなスープラも生産終了から15年が経ち、だんだんと状態の良い個体を探すことは困難いなってきているが、今回取り上げた車両は、いい意味で中途半端にしか手が入れられておらず、このままでも十分かっこいいが、さらにここから手を加えるにはこの上ない状態と言えよう。
いい意味で中途半端と言ったのは特にエンジンで、HKSのパワーフィルター以外はほぼノーマルであるというところ。
もともとノーマルの状態で、2JZは280PS/5600rpmという最高出力と46.0kgm/3600rpmという大トルクを発揮するが、特に出力に関しては、当時の自主規制に合わせる形で280PSにとどめているため、この車両のようにマフラーとエアクリーナーを変えるだけでもそこそこのパワーアップが期待できる。
そして、この状態から、ECUなどの交換やサブコンなどを導入するだけで、350馬力以上の出力をたたき出すのもそう難しくない。
助手席や運転席にはチューニングカーには欠かせない追加メーターがすでに備わり、エアロも名門もヴェイルサイドを装着し、このまましばらく乗って腕を磨きながらチューニングするもよし、ここからもうひと手間加えて400馬力を目指すもよし。
まだまだ、余力を残した状態のA80スープラには、最新のスポーツカーには無い質実剛健な素性の良さと懐の深さがあり、当時走り屋を目指していた40代の方だけでなく、今の20台の若者にも是非味わってもらいたい。
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TEXT:Shingo.M