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頑固親爺の過去・現在、そして明日。

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娘に問う、頑固親父とは?「ダイヤモンドのような硬さの岩を砕くような感じ」との答え。友達の父親と比べれば、何か変なところが在った。それに、何かが違うという感覚が常にあった。自動車が好きで、いつも違う車を運転していた。黄色の車が強烈に印象に残っているが、赤・黒・白・シルバー等、何色も在ったような気がする。そして色々なメーカーの、いろいろな車種。あまり自動車には興味が無かったので、ただ物理的に見ていただけだったが。
家庭を大事にする良きパパだったのは確か。欲しい物は何でも買ってくれたし、過不足の無い少女時代を過ごせたのも確か。そいうことでは幸せだったのではないだろうか?とも。ハンドルを握る娘の言葉を聴きながら、後部座席から漆黒の闇に浮かぶ月と火星の、コラボレーションを静かに見つめていた頑固親父。その微かな眼の光には、満足感が宿っているようにも観えた。過去に置き忘れて来た物は、恐らく「無」なのであろう。有ったとしてもそれは、記憶の彼方に行ってしまったのだろう。今となっては。

大学時代は柔道をしていたらしい。卒業と同時に柔道はキッパリと止めたようだ。そして、国産車のディーラーに就職する。人気車種をあまり持っていなかった国産車メーカーの販売店で仕事をして、退職時には2000万円の貯金が有ったとのこと。現在の金額にすれば、相当の価値になる金額。本人は多くを語らないが、相当の努力が必要だったのは確かだったろう。それを元手に中古車販売店を始める。自分の好きなスカイラインGT-RやフェアレディZの売買を始める。フェアレディは売れに売れ商売になった。人気が下火になる頃には、外国車の販売を始めていた。主にメルセデスベンツ。時代の流れであろうが、これも売れに売れる。そういう意味を於いては商才に長けていたのだ。

頑固親父はウイスキーが大のお意気に入り。当時日本では洋酒は高嶺の花。5万円もする酒を愛飲していた。スナックに行き、「無い」と言われたときには、わざわざ現金を出して買いに行かせたらしい。現在では海外旅行は一般的になったが、当時は大変な金額が必要だった。1ドル360円の時代である。年に3,4回も海外に行っていた。フィリピンのセブ島と言えば、当時の日本人憧れの観光地、そしてリゾート地でもあった。この男にとっての海外旅行は、身も心もリフレッシュするために絶対に必要な、必需品だったのかもしれない。相当な重圧の中での仕事からの解放のためにも。

中年になってからウインドサーフィンを始めた頑固親父、ウインドサーフィンの目的のためだけに、オーストラリアのゴールドコーストに高級マンションを購入した。絵葉書にも映っているような。身に着ける物はブランド品。これは、自分は一流だとの証明なのか、それとも三流品だから一流品を身に着け、誤魔化そうとしているのかは不明。

自動車の趣味人達は、普通は自分の好きな車に会わせたファッション選びをするが、この男は別。その場の雰意気で選んでいるようにしか見えない。因みに現在の愛車は997カレラS。ファッションはルイヴィトン。それも上から下まで。娘の結婚式の時、花嫁の幼馴染みが、頑固親父と娘婿が初めて会った時の場面をスピーチして会場の笑いを集めていた。頑固親父は、恥ずかしさを隠そうとスプーンをせわしなく動かし、スープをただ口の中に流し込むことだけを繰り返していた。隣では、東北生まれで人の良い奥さんが、笑いをこらえるのに必死だった。娘婿との初めての出会いの時の心情風景は、この様なものだったのだろう。またこの夫婦の対比が実に面白かった。後でスープの味はどうだったのかを聞いたら、スープを飲んだことも記憶していないとのことだった。余興で頑固親父の大好きなエルビス・プレスリーの、アメリカ人の物まね名人が登場し、三曲目程の「好きにならずにいられない」の歌を聴いた時には、もう機嫌を直していた。単純なのもこの頑固親父の特徴。

小学高学年の孫娘の夏休みには、一週間程旅行にオーストラリアに行く。それが現在の最高で最大の楽しみのようだ。透き通ったダークブルーの海、蒼空に浮かぶ白い雲の下で、孫娘に「ジィージ大好き」と言われながら傾けるウイスキーグラスは頑固親爺の至福の時間。旅行帰りには訊きもしないのに、いつもは無口な親父が、饒舌に楽しかった様子を話していた。そしてこの孫娘に花嫁衣裳を買ってやるのもまた、最大の楽しみ、そして最大の現在の目標値なのだ。そのためには長生きしなくてはならないと、あんなに好きだった煙草も止めたようだ。ある日ふたりで酒を飲んでいたら急に煙草を吸いたいと言い出した。「孫娘の結婚式まで生きるためには、健康でいなければならない。煙草なんか吸っていたら孫娘の結婚式に出席できなくなるよ」と脅かしたら、煙草とライターは街の明かりを映す暗い川に棄てた。小さなふたつの波紋が、やがて大きくなり重なり合って消えて行った。

孫娘の事になると、人間が変わったようになるのも、この頑固親爺の特徴でもある。孫娘に花嫁衣裳をプレゼントするのは喜ばしいことだが、孫娘の結婚式に出席した時のスープは、果たしてどんな味になるのだろうか?

そんな頑固親爺に多幸あれ。

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2017.07.15