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趣味人は語る

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「オトウチャン」と呼ばれれば、中年以上のヨレヨレの「オジチャン」が返事するのが当たり前。その返事に振り返ったのは、長身で細身のハンサムな青年だった。程よく日焼けしたその笑顔は、日本人離れした堀の深いイケメン。ひと言でいい男。77年式のW107  450SLCのオーナーだ。

今日はクラシックカー趣味者のツーリングの日。そのイベントに参加していたひとくみの夫婦の日常の風景。「オトウチャン」と呼ばれた男は舞台俳優だそうだ。

その男は88年式のR107 300SL と 92年式のW124 230TEも所有している。

高原の一軒だけの、寂れたそば屋で昼食。
なぜ SLCなのか?の問には、「横から見た時のボディラインの美しさに魅了された」。珍しいカラーですねの答えは、「レンガ色の赤のボディカラーが気に入った。ベージュ色の内装カラーとのコントラストに魅了された」。ブリリアントレッド。このカラーNo、現在では廃盤だそうだ。

なぜクラシクカーなのか?「この時代のメルセデスベンツ車は、現在のようにメルセデスベンツの名前だけでユーザーに買ってもらおうとする自動車創りはしていない。ユーザーのコンセプトのための自動車創りをしていたような気がします。だから10年以上もの期間、モデルチェンジをせず同じ自動車を創り続けた。それは自動車本体の性能の向上は勿論のこと、なにか本物に近づくための永い時間が費やされていたように想うのですが」

「車作りに携わった当時の職人と、現在クラッシックカーの修理を生業としている職人のひとり1人が、ユーザーのコンセプトを満足させることに意義を感じている。眼に見えない職人のDNAみたいなもので繋がっているのかも知れない。本物の仕事をしている。そんな心意気が感じられるということが嬉しいとでも言えばいいのでしょうか?」

隣には、このひとは自動車の話題になると話が止まらないと言っている恋女房の目。その目は子供におもちゃを買え与えた母の目。優しさに溢れてた輝きがあった。

狐とタヌキが営んでいるような佇まいのそば屋の風貌。何か騙されたような気がする食事だったが、味はなかなか美味。それ以上に美味だったのは、もちろん車談義だった。

イベントの帰り道、田舎の真っ直ぐに延びた高速道路、行き交う車の数は少なく、窓を流れて行く風が夏の香りを運んで来てくれる。

知らず知らずに、メーターがレッドゾーンに近づく。このまま東の星座まで飛んで行きそうだ。こと座のベガとわし座のアルタイ。七夕伝説の織り姫と彦星のところまで。

突然、ソニックブームのような空気をゆさぶる大音響が響き渡り現実に帰る。

ラジオには、ビリー・ジョエルが流れていた。

2017.06.16