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バブル期に花咲いたアヴァンギャルド【スバル アルシオーネ】

1970年代から1980年代はスバルにとって決して明るい時代とは言えなかった。軽自動車は比較的好調な物の、小型乗用車はというと、1972年初代スバルレオーネ・エステートバン4WDで世界に類を見ない乗用車タイプの四輪駆動車を発売、それまでの4輪駆動車といえばジープという常識を打ち破るもので、へき地や豪雪地帯のユーザーにはクロカン車よりも快適で走破性の高い乗用車として支持されるが、逆にこれが災いしスバルの乗用車は質実剛健で田舎くさい、泥臭い実用車というイメージから、一部の「スバリスト」と呼ばれる愛好者を除いて一般の乗用車ユーザーからは敬遠される事となってしまった。

 

しかし、一方で海外ユーザーから思わぬ吉報を受けることとなる。高速走行の多い海外ユーザーが、高速走行中に試しにトランスファーを4WDに切り替えた所、天候に関係なくスタビリティが安定するという使い方を「発見した」というのだ。

 

レオーネ4WDは当初はヘビーデューティでクロカン車同様、悪路走破性を目的にしたものであり、当のスバル自身もまさか高速走行時の操安性に寄与するとは想定していなかったのである。

 

しかし、1980年ドイツのアウディがクワトロを発表、1981年からはWRCに実戦投入するなど、確実に高速4WDロードカーの時代は近づいてきていたのである。

 

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バブルの足音も近づく1980年代、オイルショックや排ガス規制の混乱も収束し、市場からはハイソカーと呼ばれる高級志向の乗用車や、ハイパワー車を望む声が強くなっていった。それに応えるかのように1985年スバルが送り出したのが、今なお前衛的デザインが色あせないスバル・アルシオーネだろう。ちなみにアルシオーネとはスバルの由来となったすばる星(プレアデス星団)の中で最も明るい星の名から来ている。

 

アルシオーネは当初、国内市場よりもクーペ需要の多いアメリカ市場を主眼に置き、安価なパーソナルクーペとして売り込むはずだった。折しも日米貿易摩擦の悪化、日本の過剰な貿易黒字、為替レートの安定化を目的としたプラザ合意により急激に円高が進行、日本車の価格が高騰し、海外市場での売れ行きが落ち、アルシオーネは急遽、高級パーソナルクーペとしての路線変更を迫られる事になり水平対向4気筒1.8Lエンジンのみだったラインナップに急遽、アルシオーネ専用に水平対向6気筒2.7Lエンジンを搭載したVXを設定することになる。

 

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しかし、そのアヴァンギャルド過ぎるデザインはまだ日本では受けいれられなかったのか、他社よりいまいち見劣りするスペックだったのか、アルシオーネもまた販売面で苦戦する結果となり、アルシオーネ用に開発した2.7Lエンジンはレオーネに搭載することが出来ず。開発費用は大きな負債となってしまい1980年代後半には財政を圧迫することとなる。

 

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なんと、アルシオーネの開発コストの回収が見込めず、各国産車メーカーが好景気を謳歌している中、スバルの財政状態はあわや倒産という自体に追い込まれていたのが実情だったのだ。

 

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しかし、そのメカニズムは非常に先進的な物であった。元飛行機屋らしく、空力にあらゆる技術を惜しまず。Cd値は0.30の大台を割る0.29、フルフラットのフロアに凹凸が一切ないボディ等あらゆる空力技術が投入されていた。

 

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やはり特筆すべきはスバルのお家芸の4WDシステムだろう、国産車ではトルクスプリットタイプのフルタイム4WDといえばR32GT-Rが有名だが、実はアルシオーネはGT-Rに先駆ける事1987年に油圧制御による前後駆動配分を変化させる電子制御アクティブトルクスプリット4WDを採用する。(因果な話だが、スバルも日産に吸収合併されたスカイラインの旧プリンスもそのルーツは中島飛行機である)

更には速度に応じて車高を変化させるエアサスペンション、路面状態に応じて制動を制御するABSを採用、さらにそれたの走行状態に応じて電動パワーステアリングを連動させた統合制御システムを採用、現在の予防安全技術の走りといってもいいだろう。

 

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しかし1988年の発売のレガシィが日本にステーションワゴンの一大ブームをもたらし、1992年のインプレッサのWRCでの目覚ましい活躍にスバルは起死回生を果たすことになり、高度な駆動制御システムは後にスバルの看板技術である全天候型AWDとして結実する。アルシオーネ、その存在はスバル60年の歴史の中で一際明るく輝いた星とでも言うべきだろう。

 

TEXT:鈴木 修一郎

PHOTOS:TUNERS






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