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K君の物語

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君の人生の生き方は、「穴の開いた、沈み掛けた泥船の船長みたいだね。」と言ってみた。
微妙な微笑みが返ってきた。

ドリフトが好きな若者がひとり居る。年齢は26歳。現在では、一般道でのドリフトは全面禁止。見つかれば、直ぐにパトカーが来て検挙される。そのために毎週の休みにはサーキット通いをして楽しんでいる。そしてドライブテクニックを向上もさせている。
飛行機のエンジニアを養生する全寮制の高校を卒業し、一部上場の会社にメカニックとして勤めていたが、辞めて中古車販売店に勤めた。そこに勤務する先輩と何となくドリフトを始めた。その中古車販売店では、ドリフトに使用できる中古車を専門に販売している。
年に数回は仲間達と共にサーキットに行き走行を楽しんでいるが、その仲間たちからも一目置かれている。サーキット走行後にはその仲間達が、自分の走行テクニックについて意見を求めに集まって来る。そして彼のアドバイスに皆耳を傾けている。

彼のドリフトテクニックはずば抜けている。
でも人生を上手く歩むテクニックだけは、生憎と持っているようには見えない。
四か月程前、会社の近くにアパートを借りたと楽しそうに話していたが、お金が足りなくなり、また自宅生活に戻るとのこと。「ドリフトにお金を使い過ぎた」とはにかんでいた。
突然、思い出した事柄。「恋人は?」の問いに、表現の言葉が見つけられないような悲しい顔をした。「ドリフト命」でドリフト以外はストイックな生活をしている男には、聞いてはいけない話題なのかも。

目の前が白煙に包まれ、白煙の中から青色の自動車が姿を現す。直ぐ横を脅かすように車が斜めったまま、物凄いスピードで通り過ぎて行った。一瞬の視線。一瞬の微笑み。これが答えかも?
人生という荒波のサーキットでも泥船の船長として上手く乗り斬って欲しい、という想いで言った言葉だったが意味を理解していたようだった。

2017.04.30.